願望上のユーザーを追いかけて破滅する起業家たち

前回の記事が思ったより反響があって、再定義という物言いにもいろいろご意見をいただきました。僕の語彙力が低いばっかりに市場の再定義という表現しかでて来なくて適切に表現できてるかはわかりませんが、コメントを見ているとそれでもなんとなく雰囲気は共有してもらえたようでよかったです。



そしてまたいつものごとくこのブログの愛読者様であられ偉大なる創業者である@kawango38様から「お前はまだ見えていない。早く上がってこいよ。俺のとこまで。」感あふれる愛ある意識高いコメントをいただきまして大変光栄ですw。

起業家「ビジネスはコンセプトが大事や!」 @kawango38「お前はまだ見えていない。早くあがってこいよ。俺のとこまで。」起業家「えっ。」 - Togetter http://togetter.com/li/506519


何事もそうですが、後から振り返って何かを解釈するのはとても簡単ですが、実際に当時未来を予想し決断してその方向性に向かっていくのは、たとえ知ってしまえばあたりまえとも言うべき簡単なことだとしても本当に、本当に難しいことです。



創業者で成功した人は「自分は運がよかった」と簡単そうによく言いますが、本人は忘れているけど、実際には要所要所で重要な意思決定を徹底的に考え抜き、ビジネスをデザインし、戦略に落とし込み、チームを取りまとめてスピーディーに攻略し、目標を達成する一連のプロセスをひたすら積み重ねています。



だからこそ投資とか起業というのは非常に尊い価値があることなのです。



そしてどんな起業家もその領域にニーズやチャンスがあり自分が市場を再定義できると信じたからこそ、見えもしない前人未到の山頂目がけて全力で登っていくわけです。



それでも大多数は「再定義」だと思っていた事が実は検討違い、あるいは力及ばずして道半ばにして息絶えるわけですが、この失敗する理由はなぜかというと得てして「願望上のユーザーを追いかけて」しまって「センターピンを倒せなかった」ということにつきるのではないかと思っています。



わかりやすく言うと、よくありがちなのが



「あ、こういうの思いついたんだけど、これがあったらいいよね!?みんな使うでしょ!? ね? そう思うよね? でしょ? ほらほら〜 俺アプリつくるわーついでに起業するわー 」っていう状況からあまり掘り下げられずにつくられていってしまった あったらいいな願望上のユーザーを対象とした「ぼくのかんがえたさいきようにべんりなサービス」です。いきなり企画に「プラットフォーム」「ソーシャル」なんかの言葉が最初から踊ってるとほぼ死亡フラグです。



なぜならこれらの大多数の企画はユーザーの本質的にニーズを掘り下げずに、自分のこうであってほしいという願望上のユーザーをお客さんにしてしまっているからです。



やっぱりどんなサービスや製品でも使ってくれるユーザーや買ってくれるお客さんがいないと成り立ちません。



そして世の中のほとんどの人は何か目新しい革新的なものに触れたとしても、それがいちいち自分にとってどんな価値がもたらされるかを判断する時間を割いてまで使ってくれません。



その効果を伝える為に企業は莫大な広告費やプロモーション費用を投下するわけです。とはいえ起業家にはそんな潤沢なリソースはどこにもありません。



すでにわかりきったニーズがあるものであれば、日々眼を血眼にしている大企業のマーケティング部門や新規開発部門が製品化しているわけなので、起業家と呼ばれる層はニーズを丹念に探っていって、顕在化されていなかったニーズを見抜き、そして限られたリソースの中で全力でセンターピンだけを倒しにいかないと行けない訳です。





センターピンというのは、ボーリンクのセンターにあるピンのことで、ストライクを出そうと思ったらここを絶対に倒さなければならないピンのことです。他のピンをどんなに倒そうがこのピンを倒さなければ絶対にストライクはでないという、クリティカル・核心部といった意味です。



ところが誰だってこのセンターピンというのが簡単に見つけられたら苦労しないわけです。





先ほどお客さんは新しい商品にいちいち自分にとってどんな価値がもたらされるかを判断する時間を割いてまで使ってくれませんと書きましたが、それと同時に

前回の記事にも書きましたが、ユーザーは目の前にない、みたこともないサービスに対して正しい評価を下す事もできません。



そうするとどうすべきか? 答えは最小限のコンセプトにしぼったそれらしいサービスをなるべく最小限のリソースでつくって市場に投入して、ユーザーの反応から核心部分を見抜くです。



いわゆるこれがリーンスタートアップという概念の本質的なところなんだと思います。



例えばアメリカのairbnbというサービスは、「個人の部屋を貸し借りする」サービスとして世に誕生しましたが、当初1000日以上鳴かず飛ばずで創業者もひもじい思いをしていたそうです。

なんかその間に創業者は大統領選挙をモチーフにしたネタのシリアルとかつくって食いつないだりしてるわけです(こういう発想が浮かんでくる時点で起業家としての素質があると思いますw)

当初はbnb(ベッド・アンド・ブレックファスト)とあるとおり、ホストがいるときにゲストと泊まって朝食を出したりしてもてなすといった、のが前提のサービスだったわけですが、

彼らの転換点は、「ある日1人のミュージシャンが、ツアー中に空室になるアパートの自室を全て貸し出すというアイテムをAirBnBに登録した、するとあっという間に部屋がうまったと」いうところからヒントを得て、サービスをそれを前提に作り替えた事です。



今までは「ユーザーは誰かと部屋を貸し借りしてホストとゲストは朝食をともにしたりして楽しんだりするに違いない」と思い込んでいてつくっていたサービスが、センターピンは「ユーザーは空いているスペースを誰かに手軽・かつ安全に貸し出して、多少でも収益にしたい」だったというわけです。そしてその延長上に「ソーシャル」という付加価値が乗っかっていたわけです。



こうやって見れば当たり前というか、しごく簡単な発想ですが、毎日全力で向き合っていた創業者ですら1000日以上も暗中模索の日々でユーザーを見続けてようやく見抜くことができたわけです。



だからこそセンターピンを見抜くというのは本当に難しい。謙虚に地道に、ユーザーや市場を観察しつづけないといけない。



そして、センターピンを見抜いたらそれをリソースが枯渇する前にそれを全力で倒しにいくんです。



得てして大成功したビジネスというのは意図したにせよしないにせよ初期にセンターピンを見抜いた上でそれを全力で倒すことに成功しています。





Google? Yahooがあるじゃん?まぁ、でもYahooのディレクトリ検索だけじゃなくて、こういうGoogleのアルゴリズム検索もあったら使ってみてもいいかもねー。まぁ、でもわざわざGoogleまで行って検索しようとは思わないなぁー。

→yahooの検索エンジンに採用される。



Facebook? My Spaceがあるじゃん? まぁ、でも友達の写真とか話をみんなで共有するのに皆の名前がわかってたりすると便利かもね。よくわからない人に見せたくないし。

→アクティビティが多く、大勢の友人と写真共有したりコミュニケーションを行う動機が最も高い「大学生」間におけるSNSとして圧倒的ポジションを確立する。



iPod? ウォークマンでいいじゃん? まぁでもCDを買ってきてPCに取り込んだり、編集が簡単だったら便利かもね。CDとかMDのままだと編集しにくいし何より持ち運びにくいし。

→音楽データを手軽に購入し、編集を簡単に行えるituneというソフトウェアを作成し無料で配布する。



LINE? Skypeでいいんじゃん? まぁ、でもいちいちIDとったりするの面倒だし、向こうが登録してるとか使えるかわからないし、携帯のアドレス帳みたいな感じで使えたら便利かもしれないね。

→誰でも携帯電話端末内のアドレス帳の電話番号を基幹としたIDシステムかつマルチデバイス対応。





とまぁ、歴史をひもとけば数知れず。。。

結局願望上のユーザーに固執し、センターピンを見抜いて倒せなかった起業家はリソースが枯渇してしまい失敗してしまうわけです。


でも、ボーリングと同じで何回もボールを投げれば倒れる可能性も増えるというものです。そして、投げたら狙ってなくても偶然センターピンが倒れちゃったというような運の要素も多分にあったりするわけです。


何ひとつ正しい答えなんてないです。


だからこそ面白く、そして難しい。