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【ショートショート】久しく人類が大きな戦争の悲惨さを忘れた時代。それは突然として人々の目の前に現れた。

ショート・ショート イスラーム

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久しく人類が大きな戦争の悲惨さを忘れた時代。それは突然として人々の目の前に現れた。

インターネット上の動画サイトに突如として新しい時代の国家設立を宣言し、それに反抗する者を残虐にも次々と処刑する首謀者の姿を写した動画は、またたくまに世界中を駆け巡り社会の話題の中心となった。

長らく戦争から遠ざかっていた文明国家の国々はそのかけ離れた非人道的な立ち振る舞いに怒りをあらわにし、ただちに批判声明を発表。しかしながらその一方で理路整然として、それら文明国家の過去の鬼畜な所業を正々堂々と批判し、自分たちの新しい国をつくるんだと語る首謀者の自信溢れる姿は、現在の社会体制に不満を抱くものたちの秘めたメッセージをまさに代弁するものとして、世界から少なからず一定数の支持を得た。それを追ってか追われてか世界各国で同じように現状に不満を抱く者たちが反逆国家の拠点とされる国へと引き寄せられ戦地へとわたると、首謀者と同じようにメッセージを述べ残虐な動画を次々と動画共有サイトやソーシャルネットワークに投稿し、スマートフォンの普及とあいまって、誰しもがそれらのメッセージや動画を見る事ができるような文明社会の発達を背景に、世界はまたたくまに異様な様相を呈する時代へと突入していった。


次から次へと投稿される首謀者やシンパたちのメッセージとそして動画。その都度世界各国でそしてネットでわき上がる、議論や非難の数々。首謀者が属しているとされる宗教や人種は白い目で見られ公然と迫害をされるようになり、その中の少なからず多くの者たちは、まるで手のひらを返すかのような人々の振る舞いに、失望感を抱き今までの自分たちが誤りだだったと首謀者の後を追い銃と爆弾を手に取り、そしてまた多くの血が流れた。

この人類未曾有の脅威に世界各国はただちに連合国を組織し、勇敢で正義感に溢れた大統領をリーダーとして新たに選出すると、兵士や爆弾を積んだ爆撃機が次々と拠点へ向け出撃した。

敵の防空網をかいくぐり、勇猛果敢にも爆撃を行う光景や、戸惑い逃げ惑う難民たちを揚々と救出する連合国の動画が次々と動画共有サイトへアップロードされると今度はうってかわって連合国の人々が悪を非難する賞賛の声がインターネット上に溢れた。またその一方で正義の名のもとに多くの無関係な民間人達が、爆撃に巻き込まれ流血しその模様を生々しく映し出した光景が反逆国家によって動画共有サイトへとアップロードされるとまたしも憤りを感じた志願者たちが反逆国家へと志願をし戦地へと赴いていった。


圧倒的な戦闘力格差を背景に、すぐにも終わりそうだと思われたこの争いは、首謀者の巧みなアジテーションと次々と生まれる志願者たちの存在により泥沼へと突入し終わりの見えない長期戦へと突入した。そして何よりも連合国が手を焼いたのがその首謀者がどこを探してもたくみに逃亡し見つからないということだった。連合国が首謀者の潜んでいる場所を爆撃したかと思うとそこはすでにもぬけの殻で、反逆国家の重役を殺戮したかと思いきや、またまたシンパから新しいメンバーが選出されてさらに団結力が強化されていくという繰り返しだった。

もはや、戦争の終わりさえ誰しもが想像できなくなった明くる日、連合国大統領からの特命を受けた精鋭の特殊部隊は多大な犠牲を払いついには、反逆国家の首謀者が潜んでいるという拠点を見つけ出し、守備隊の猛攻をくぐり抜けなんとか首謀者が隠れるという部屋の前へとたどりついた。

守備隊の最後の抵抗を退け、特殊部隊の隊長が勢い良くドアを蹴破って中へ踏み込むと、そこにはただ部屋の真ん中にタブレットだけがぽつんと置かれていた。

隊長がおそるおそる画面を覗き込むと、そこの画面にはただ、世界各国で日々渦巻くソーシャルネット上の怨嗟の声を自動で拾いあげ、そしてまた反逆国家へと寄せられた動画や声を自動で編集したかと思うと首謀者の声明として次から次へと共有サイトへ自動でアップロードされている光景が広がっていた。

そしてただ部屋には世界各国から寄せられる膨大な動画やメッセージを処理していると思われる、不気味なサーバーの駆動音だけが響き渡っていた。

そして、間もなく、仕掛けられたと思われる、爆弾が炸裂し、隊長は倒壊する建物に巻き込まれる建物から隊員達を救う間もなく脱出するしか他になかった。


作戦から翌日、首謀者により、連合国が急襲した場所は拠点でもなくただの民間施設で、首謀者は別の本拠地にいることやまたも無関係な子供たちが犠牲になったと新たな動画がアップロードされ、非難声明が発表され、またいつもと同じように戦争が続いた。

数日後大統領から極秘作戦の功を評するとして、隊長に大統領府からおよびがかかった。

大統領は多忙のため、動画でのメッセージによるねぎらいの言葉と案内され、大統領の部屋へと入ると真ん中にぽつんと置かれたモニターから映し出された動画には、大統領からのねぎらいの言葉そしてまたこの世の悪は絶対に根絶やしにしなければならない。今回の作戦は失敗に終わったが、我々は悪が滅びるまで決して諦める事はない。悪の最後の1人が倒れるまで徹底的にやる。隊長も殺された部下のかたきのため正義の名のもとに戦場で新たな部隊の指揮をとって欲しいという、大統領の力強いメッセージが映し出された。

ええ、大統領閣下。正義のためにこの身を捧げます。悪を1人残らず駆逐し、理想の社会を取り戻しますと、敬礼をし部屋を後にする隊長。そして一連の隊長の活躍を動画共有サイトで知って押し寄せた市民たちは、部屋から出てきた隊長を見かけると取り囲み惜しみない歓声を送った。


そしてただ誰もいなくなった部屋にはあの不気味なサーバー音だけが響き渡っていた。

いつまでも、いつまでも。


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