君たちがつくっているプロダクトは「AK-47」か。

今週IoTのイベントに参加したり、ウェアラブルEXPOに出展されていた様々なプロダクトを見ていろいろ考えていた。

長い人類史の中にはそれこそ我々の生活スタイルの在り方すら変えてしまうイノベーションと呼ばれるようなプロダクトが誕生し、世界を大いに変える。

例えば、2001年に誕生したiPodはその1つの例といえるだろう。だが、そんなiPodの初代の様式を踏襲するiPod クラシックも気がつけば販売が終了してしまってその10年かそこらの歴史を終えており、iPodを支えたiTunesの音楽販売モデルも定額制の音楽サービスの流行によりその先行きは不安になりつつある。現代では各もプロダクトのサイクルは早くなりつつあるのだ。


だが、70年も前に作られたあるプロダクトが現在もほぼその原型を変えずに現在も世界で5億台以上も使われているとしたら、あなたはそれを信じるだろうか?




その名は「AK-47  カラシニコフ銃」

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AK-47 - Wikipedia

世界最小の大量破壊兵器の異名を持つ、突撃銃である。

巷でよく話題となる、テロリストや過激派集団が持っているあの独特の銃といえば、わかる人も多いかもしれない。
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数あるあまたの人類の歴史の中で、これほどまでひとつのプロダクトが数多が長期にわたって使われ、そしてあるいは国旗にもなってしまったプロダクトが存在するだろうか。

だか、Ak-47はそれをやってのけた。

人類を最も多く殺したのは、人類の叡智を凝らした核兵器でもなく、最新鋭の爆撃機でもなくただ、この8つかそこらのパーツから構成される簡素な銃だった。

それはAK-47こそが、イノベーションの本質を見ぬいていたプロダクトだったからだ。



銃にとっても最も大切なこととはなんだろう?

人を死に至らしめる殺傷力、狙ったところに当てることができる命中力、一度に多くの敵を制圧する装弾数、軽く持ち運びやすい携行性蛍、あるいはより遠くの敵を狙える射程距離か・・・、この人類が産んだ小さなプロダクトは人類の血の歴史の中で多くの試行錯誤が繰り返され改良が加えられていった。


そして、1947年、ソ連の技師カラシニコフによりAk-47が登場する。


ソ連が産んだ伝説の技師は、第二次世界大戦時にドイツの圧倒的な高性能の銃の火力の前になすすべもなく壊滅する自国の兵士を目の当たりにし、新しい銃の開発に取り組み、銃とは何か、どうあるべきかを模索し、ある答えを導き出した。


果たして銃とはどうあるべきか。


その答えは「誰がどんな状況でも引き金を引けば弾が出る銃」だった。


AK-47はその特徴の一つに、「あえて部品の公差が大きく取られている」という特徴がある。

ざっくり言うと、部品と部品の間をあえて大きく取ることによって、多少乱暴な扱いでも問題なく発射できるようになっているということだ。

銃というのは火薬を使っている以上、慎重に取り扱いをしなければ、暴発により使用者自信が命を落としたり、不発や成果を出せないというリスクもある。そのため銃を扱うためにはどうしても専門的な訓練や取り扱いの訓練が必要不可欠なものであった。そしてその訓練を受けていうるということが兵士を兵士たらしめていた。

ところがAK-47は違った。砂まみれにしても、ちょっとした水に浸そうがそのままでガシガシ動く。

ベトナム戦争では1年間土に埋まっていたAK-47を試しに打ったら平然と稼働したという逸話もあるそうだ。

部品の公差が大きく取ることでパーツ数も少なくなり、複雑な設備もなく量産が可能となりコストも下げることが可能となった。

銃に触れたことのない人間が、すぐに銃を手に入れ、簡単に取り扱いができるようになった

もちろんこうした耐久性と引き換えに銃本来の大切な命中率というのは著しく減少している。

だが、実際の戦争において何よりも大切なのは命中率が高いということよりも、絶対に打てる銃を誰もが持っているという事実であった。


その結果、かつて訓練を受けた兵士しか扱えなかった銃、そして戦争というものが、市民対市民、ゲリラ、テロへと広がりここにイノベーションが席巻した。

世界を変えたのは、高性能の銃ではなく、わずか数パーツでつくられた安価な小銃だった。

だが、それが銃というものの本質だったのである。


と、一見言われてみれば当たり前に思えるようなこの形式が、実は数多のイノベーションの本質ともつながっているところが多いにあるのだ。


日本が誇るイノベーション、ウォークマン。

音楽プレイヤーを携帯し、ヘッドホンで音楽を聞くという、この斬新なプロダクトはまたたく間に世界を席巻し、人々のライフスタイルを変え、日本のSONYを世界に冠する一大企業へと押し上げた。

だが、皆さんは知っているだろうか?

ウォークマンが初めて世に出た時、テープレコーダーはすでにありふれたものだったということを。


ソニーの開発陣はウォークマンの開発指示を受けた時、猛反発したという。

「録音機能がない、スピーカーもない、そんなテープレコーダーに何の価値があって?」


だが、ウォークマンは世界を席巻した。

それは音楽を聞くということにおいて、録音やスピーカーというのは不要で本質ではなかったからだ。

果たして音楽を聞くというとはどういうことなのか。

その先端まで研ぎ澄まされた、一つの本質が「ウォークマン」だった。

AK47が銃として必要不可欠だと思われていた命中率を捨て、堅牢性をとったのと同じように、ウォークマンは必要不可欠だと思われていた録音とスピーカーを捨て、携帯性を高めたのである。



そしてまたその後、今度はiPodが初めて世の中に出た時、何が起きたのだろうか。

覚えているだろうか?

iPodが世にでたとき、いわゆる音楽データを聞くMP3プレーヤーというのは珍しくもなんともなかったということを。

当時、音楽プレーヤーの最先端を走る日本のメーカー陣は何をしていたかというとSDカードのような小型な記録端末の作成に莫大な資金を投資していた。

SDカードとやらがどうしたら容量を増やし、著作権を守り、データが消えないように耐久性を高めることができるかと1万回抜き差しチェックなどを平然とやっていた。

だからiPodが初めて世に出た時、メーカーの開発者陣は笑った。

どうすればより小さく、容量が多くて、長持ちする記録媒体を作れるかというのにメーカ各社が膨大なリソースを投資し腐心している中、Appleが出したのは、それこそ落としたらデータが消えるようなHDDがゴロンと入っているだけのただのバカでかいMP3プレイヤーだったからだ。

だから、実際iPodはよくデータが消えた。

でも、データが消えてもまたダウンロードすればいいだけだった。

音楽を持ち運ぶとは何なのか。その本質をappleは再定義して、iPodはまたたく間に世界を席巻した。



イノベーションとは何だろうか。


それは、誰もが思いもつかなかった、革新的な発明ではない。

あらゆる常識をそぎ落とし、その本質だけを徹底的に見つめたからこそ、辿り着いたごくごくシンプルな答え、「AK-47」に辿り着いたとき、それはイノベーションとなるのだ。

くしくもIoTやウェアラブル黎明期、ありとあらゆるものがネットにつながるを合言葉に様々なデバイスが世にあふれ始めている。

心拍数がわかる腕輪、アプリになる腕時計、モニターになるメガネ。

どれもが便利そうで、ワクワクして、未来的。

だが、それらに一体果たして何の意味があるのだろうか。残念なことにそれら「AK-47」ではないのだろう。

そして僕はいつも毎日自分に問いかける。

果たして自分たちがつくっているのは「AK-47」なのか。

自分たちがつくっているのが「AK-47」でないのなら、それは糞以外の何者でもない。

僕たちは新しい「AK-47」をつくりたい。 

どうか僕たちに新しい「AK-47」をつくることができますように。


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