はっきりいって育休制度はおかしいし、ここぞとばかり叩いてる人間も見ていて陰惨。

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とある大企業で男性が育休をとって復帰した直後に転勤命令がでて、これは不当だというニュースが話題になった。

個人の嗜好や偏見で一方的に決めつけた報道やそれに同調する姿勢はいかがなものか?と普段は気難しいはてなの皆さんも

はいこいつはブラック企業認定! は? 法律?   だって悪いんだから叩かれるのは当然でしょ? わるいものはわるい。はい。論破。


と労働と子育てに関しては私is正義。日本is死ね。なはてなでは鬼の首をとったような大喜びでインターネッツの盛り上がりも最高潮である。


一般論として、サラリーマンである以上、転勤と配属命令は原則断れない。過去裁判でも勝った事例はない、はず。今回の事例でも違法性はないと各所が言及している。全国に複数拠点を有する大企業の総合職として入った時点でそのリスクは理解して契約にもサインしているのだからそれは受け入れるべきである。許容できないなら転職をすべきである。少なくとも企業はそれでいて引き換えに安定した雇用を提供しているわけだからそれを恨みがましく告発するのは法律違反ではないにせよマナーには反する行為だと私は思う。そもそも今回の事例では育休自体は問題なく取得できているわけで、転勤や有給云々の問題はまた別の話ではないのかとも思う。報復人事であることを証明できなければ単なるクレーマーである。

とはいえ会社として働き方改革をすすめる中で、働きやすい環境をつくるのは重要だしそれに対応できず支持されない会社は淘汰されていくのは避けられない。ただ、今回のいち事例を振りかざしてそれをネットリンチのように叩くのは見ていて陰鬱な気分だ。ひとつあった事例がそうだからといってそれに属する組織や事例がすべてそういう意見ではあるまいし、決めつけられてしまったら今まで問題解決に向けて社内で努力や尽力していた人や無関係な人の心を折りかねないのではないだろうかとやきもきする。


また個人的な意見としては、働き方改革の文脈の中で育休制度が語られることにちょっと疑問だ。これは自分自身が独身でありいわゆる自営業という立場もどうしてもあると思う。

育休は会社にとっては罰則こそあれど明確な補助はない。助成金も微々たるものだ。働く側には補助はあるけれど、企業にはエース級の人材が抜けたときの機会損失や追加で補充する人員の費用を負担してくれるわけではないし、育休を理由にした降格や異動は禁じられているので、戻ってくる人ときのポジションもそのまま用意しておかないといけないし、期間限定であれば代替人材を都合よく確保できる可能性も低い。実質的には残された人数で業務回さないといけないというのが現実である。ちなみに、業務が回ったら回ってしまったで、「そもそも本当にこの人材はこのポジションに必要だったのか? もっと適切な場所に配置すべきでは?」「かわりのメンバーがとても頑張ってくれたのでこのまま昇格させたい。」という意見がでてしまうのもまた致し方ない側面もある。

今回の事例に関しても情報が少なすぎてなんとも判断がつかない。例えば転勤自体は手当の問題があれば解決したのではないかとか、あるいは降格でないのなら単に関東から見たときの関西に関する偏見なのではないかとかというのもあるのかもしれない。ちなみに今回の会社は大阪本社でもあるので、大阪本社に異動というのは、会社としてもっと良い場所へと配属しようとした矢先で今回の事例が起きた可能性もある。それでいてこうやって社会騒動になるのだとしたら企業としてはもはや打つ手がない。東京is正義 地方is悪 になるなら、地域社員として枠組みで契約にサインをして入社すべきだよねという結論になる。
 
 うるさい!企業は育児や転居などの家庭の事情を考慮するべきだ! というならばその線引きとはいったいなんなのか?

 通院している病院があるから、介護する家族があるから、交際相手がいるから、ひきこもりの息子がいるから、子供の受験があるから、世の中の世帯は誰しもそれぞれ事情をかかえている。こういった事情をかかえる世帯は子育てより考慮されるべきではないのか? それらを把握した上で評価や人事をすべきだというのであればそういった個人の事情にまで会社が踏み入って優先順位をつけて把握して評価を下すことは許されるのか? 会社は各家庭の家族計画まで把握して人事計画をたてないといけないのか? あるいはそれとも単身世帯の独身なら人間としての人生価値が低いから、無下や格下に扱ってもいいということなのか? 
そういった論点も考慮せずに単に働き方改革の印籠をみこしにたまたま目についた企業をおもちゃにして溜飲をはらすのは見ていて実にフェアではない。

そしてさらにこれらの議論はすべて正規雇用、いわゆる正社員という枠組みの中だけの許されている権利の話だというのもまた恐ろしい話だ。非正規雇用ならはい満期終了でさよならで終わってしまうし、ましてや雇用保険に入れない自営業やらフリーランスはそもそも自己責任の名の元に育休なんて社会制度はないので完全に置き去りである。経営者が育休制度を充実させたところで、代表はその恩恵にはいっさいあずかれない。儲かっているからいいだろ!と感情論をぶつけたところで、日本にいる600万人以上の自営業やらフリーランスやら中小企業のほとんどは赤字やらギリギリだ。経営者のワイが労働しなくてもワイの代わりに労働者が稼いでくれるわいなんて会社はほぼない。

あと育児休暇というのもここ最近でてきた話でかつては制度がなくても回っていた上に、テクノロジーやノウハウの蓄積で前よりオペレーション自体が向上していてもおかしくないのになぜ負荷が大きいので休暇を義務化させるべきだというロジックになったのかも不思議な話だ。生まれてくる子供の質や親のレベルが退化したとか、乳幼児向け用品が供給不足だというならわかるけれども、そういった話は聞いたことがない。むしろ日々進歩して充実しているのではないのか。いったいなにをもって子育ての負荷が増大しているという判断をしたんだろうか。核家族化によって子育ての負荷があがったということになるのであろうか、だとすると実家であれば負担は減るということになるのか。これもまたフェアではない気がする。


 と、配偶者の環境や居住形態や雇用形態や個人の評価によって負荷が異なるのに、一律に同じ負担と評価を社会に強いるのは完全に制度として欠陥だと思う。そしてそのシワ寄せは必ず誰かに行く。今回だって、じゃあ転勤命令を無効にしたとして、誰か他の人が代わりに転勤になるかもしれないし、その人の家庭はかわいそうじゃないのかという問題もある。日本死ねのときもそうだったけど、結局あれもこれも、他人はどうなっても構わないけど自分はかわいそうだし自分さえよければいい、という透けて見える自己愛がなぜいつも美談のように扱われるのかが不明だ。

こうした世論に同調して叩いている本人たちは世直し気分かもしれないが、たとえ整備したところで実利が伴わない制度の強制は現実的ではないし、かえって表にでないように入社時の選別やフィルタリングが増してしまうというリスクもある。さっきも言ったとおり育休はそもそも大義名分の名のもとに一部の人間にだけ許されたかなり不公平で優遇された制度だ。
子供を育てやすい環境をつくるというのは同意だが、だとするにしても一律に休暇を取らせるのを是ではなく、在宅勤務やリモートワークの推進など、そういった体制づくりに打ち込む会社や社会も評価されるべきではないのか? それをしないのは行政の怠慢ではないのか。

一般論として労働問題や育児などは数が多いマジョリティの意見が幅をきかせて大多数になりがちであるし、反対側が現実的な発言しようものなら揚げ足取られてブラック認定されてしまうようないわば私的な言論統制状態にある。声のでかいのを勢いに恫喝をして見てくれだけ良いように制度だけ変えさせたところで絶対量がかわらなければトリクルダウンはおきない。代わりの誰かにしわ寄せが行くだけであなた自身に恩恵がくることもない。叩いている本人たちは自分たちが声をあげることによって正義が果たされたと思っているかもしれないけれど、理性もなく不条理に叩いたのならば、どこかで不条理な報いがかえってくるだけであろうと思う。