世界で最も多くの人を殺せる兵器は何だろうか?
世界で最も多くの人を殺せる兵器は何だろうか?
原子力爆弾? ロケット?
No。
答えはAK47という銃だ。
ソ連の兵器設計者によって生み出された自動小銃のAK47はそのシンプルな構造と耐久性ゆえにまたたくまに世界各国へとわたった。
多くのゲリラ兵が、テロリストが、そして少年少女がその銃を手にとって殺戮を繰り返した。
- 作者: 松本仁一
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2004/07/16
- メディア: 単行本
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「悪魔の銃」と呼ばれるAK47
FPS好きにとってはどのゲームでも目にする銃。きっとこの銃を選んで使ったことのある人も多いだろう。
しかしその背景には涙と血塗られた歴史が広がっている。。
内戦により家族が崩壊する悲劇、小学生頃の年頃の少年少女が銃を手に取り、殺戮を繰り返していくという悲劇、国が崩壊しもはや世界からも見捨てられるという悲劇、その中心にはいつもこの銃があった。
この本はそうしたAK47の絶望と悲劇の螺旋をアフリカの内戦、そして実際の被害者を例にとってまとめている名著である。
中学生時代、朝日新聞の連載を食い入るように毎日読んでいたことを思い出して、ふと古本屋でとってしまった。
古本屋はこんな出会いがあるからいい。
僕達はこの本から何を学ぶべきだろうか?
かわいそうな少年少女? 悲劇の国家?
答えは、マクロとミクロの視点を組み合わせた視座、である。
冒頭に戻ろう。
世界で最も多くの人を殺せる兵器は何であろうか?
きっと多くの人が原子力爆弾、あるいは水素爆弾といった核兵器をあげるだろう。
なぜなら原子爆弾、水素爆弾はこの地球を何十回と破壊できるほどこの地球上に存在し、国と人をすべてを消滅させる兵器として我々の脳裏に深く刻まれているからだ。
しかし、現実はどうだろうか?
かつてこの国は原子力爆弾によって数十万人という罪なき国民を失った悲劇の国である。
この点において核兵器は世界最悪の兵器といっても過言ではない。
しかし、世界全体の戦争の歴史でみればしょせんそれっぽっちの数字なのだ。
現在、冷戦がなくなった現代とはいえ、地球上には何千発の核兵器がある。
しかし、核の抑止力という力においてそれらの兵器が実際に火を吹くことはありえない。
むしろ、そのような抑止力の恩恵によってこそ多くの戦争が起こらずにすんでいるという見方もできる
そう、世界最悪の兵器は人を殺さないのだ。
それと引換この悪魔の銃はどうであろうか? たった数パーツの部品から構成され、年増もいかない12歳の少年少女が殺戮兵器へと変貌させる力を与える、安っぽくそして恐ろしいほど頑丈な銃である。
このたった数百ドルに満たない兵器は世界に1億台以上生み出され、数えきれない命を生活を国を奪っていった。
何のテクノロジーも進化もない、この単純な銃が、である。
人間は目の前のわかりやすい存在を過大に捉える。
それは時に恐怖だったり、幸せだったり、あるいは絶望だったり。
しかし、本質的な問題はそこにはない。そのことをこの本は教えてくれる。
例えば、今の福島原発問題はどうだろう?
原子力はたしかに危険なエネルギーである。
使い方を誤れば多くの人が死ぬだろう。今回の悲劇はそのいい例だ。
そんな危険なエネルギーを今回の悲劇をきっかけに止めてしまえばさぞかしせいせいするだろう。
しかしよく考えてほしい。この国は電力の25%を近くに原子力に依存している国なのだ。
そんな原子力をいきなり止めてしまってこの国で何が起こるだろうか?
国全体に漂う節電という名の美徳と、類を見ない猛暑によって今年の夏はきっと数百人単位でたくさんの人が死ぬだろう。
もしかすると被爆を原因とした死者もでるかもしれない。
きっとその死は反原子力をすすめる人たちにとって神輿のように担がれて、この国から脱原子力を推し進める機運の一役を買うだろう。
原子力はこの尊い命を奪ったと、悲劇は絶頂を迎え、脱原子力の合唱があちこちではじまるだろう。
だか、その裏側では猛暑と節電で本来であれば死ななかった人が大勢死んでいる。例年の何倍も何十倍も。
原子力をとめなかったら助かったかもしれない命である。
その人たちの死はきっととりあげられることもないあわれな犬死だろう。
今、目の前にある本当の危機とは何だろうか。
話がそれすぎてしまった。
だが、こういう視点をもつ、ということはこれからの社会で本当に大事なのだ。
命を奪う、という側面でこの本は書かれているが、逆に命を救うという側面でも当てはまる。
世界の人々を救うのはひとりの名医や立派な大病院ではない。
世界中の誰にでもすぐに手に入り簡単に使える安価な医療薬なのである。
画期的な発明や科学技術の髄を凝らしたテクノロジーもはや世界を変えない。
世界を変えるのはそれがありきたりのように広く行き渡ってしまったときだ。
一人の天才ではなく、無知の愚衆が世界を変えていく。
次に世界を変えるのは、あるいは滅ぼすのはなんだろうか?
その時代はもう間もなくやってくる。