【ショートショート】 「      。」

2XXX年。

高度に発達した機会文明となったある国は、ついに完全自立思考型ロボットをつくりだすことに成功した。


定まった時間がくるとロボットは日々与えられた業務を行うために、定められた場所へと向かった。

次から次へとやってくる移動式マシンにロボットが無造作に隙間無く詰め込まれ、運ばれていく。

ロボットたちは定められた稼働率を達成するために、過酷な環境で日々厳しい業務に追われていた。

その日の稼働が終わると、ロボットたちは別のロボットたちが運営する補給施設に行きエネルギーやメンテナンス用品を補充する。

補給施設もロボットたちがいつでも、効率よく補給ができるように24時間365日止まる事無く運営されていた。

ロボットが補給しやすいように、エネルギーやメンテナンス形やすべて国内で統一されていた。

またそれらの補給施設の中にはロボットが効率よく速やかにエネルギーを補給できるように、一列のカウンターでロボットが順に補給できるように合理化された施設も用意されていた。

さらに、熱さや寒さが激しいその国で過酷な作業を行う必要があったロボットたちは外装を定期的に交換する必要があった。

ロボットたちは、同じようにロボットが外装を選び入れ替えた。これもまたロボットが効率よく入れ替えができるように、全国で同じ様式に統一されていた。

その他ありとあらゆるシステムがロボットにより、24時間365日世界で動き続けていた。

しかし、それでもまだまだロボットたちは完璧ではなかった。

ごくまれに回路が壊れかけたロボットが、監視の目から外れるとプログラムに反した行動をおこなった。

それらロボットの存在は他のロボットたちにも稼働に大きな影響を与える、悩みの種でもあった。

そしてそれらのロボットを監視し、見つけ出し、取り除くのは大変なコストが必要だった。

ところがある日、その課題の解決策はひょんなことから発見された。


「      。」

バグをおこすロボットたちは決まって通信用の小型端末にあるコードを入力していたのである。

そこでそれらのコードを可視化し、他のロボットらが見つけ反応できるような仕組みが用意された。

その結果、バグを起こしたロボットたちはあっというまに他のロボットたちに見つけ出され、バグを持ったロボットはただちに抹消され二度とシステムに復旧することがなくなった。

ロボットがロボットを互いに監視しあうこの仕組みにより、ロボットたちは24時間365日互いに互いを監視しあい、完璧な支配が実現された。

こうしてロボットたちは24時間365日壊れるまで、徹底的に監視され、稼働し続ける完璧な社会が訪れた。

ただし、そのコードが何だったのかということに関しては記録は残っていないという。









「馬鹿馬鹿しい。ほんとショートショートにでてくる未来の話ってどうしてこうも非現実的なんだか。時間の無駄だった」

武志はそう言って、スマートフォンを放り投げると枕に顔をうずめた。

「あ、いけね今日は早番だった。この時間帯は電車が込むから嫌なんだよなぁ。」

武志は万年床にしかれた掛け布団を蹴っ飛ばしのそのそと立ち上がった。

こうして、週に何度か、隣町のバイト先の飲食店まで満員電車で向かうのが彼の日課だった。



「ふぅー ようやく終わった。ほんとこれじゃネットに書いてある通りのブラック企業だよ。」

気がつけば、時計の針は深夜12時を回っていた。最近、人が次々辞めたせいでそのしわ寄せが武志にも及んでいたのだ。

帰り際にコンビニエンスストアで生活用品と夜食用のラーメンを買いこんだ。

最近はプライベートブランドが普及して安く買えるので便利だ。一人暮らしを始めた当時は、スーパーの激安セールなんかにも熱心に行ってみたが、結局これに落ち着いた。

24時間365日いつでもやっている便利さの前にはかなわない。

グゥー

腹が悲鳴をあげる。あまりの激務にすっかり忘れていたが、昼から何も食っていなかったのだ。

「こりゃ家まで我慢できないな。なんか食っていくか。」

駅前に煌々と光るオレンジ色の看板。24時間365日いつでもやっているイカした店だ。

「並ひとつ。」

くたびれたスーツを着て黙々と飯をかき込むサラリーマンの横に座って武志も同じように無言で牛丼を口にかき込んだ。

「380円のお会計デスー。」

カタコトの紋切り型の日本語を話す店員に黙ってお金をわたし、店を出る。

ふと仄かな初秋の夜風がつんと鼻にしみた。

「あー ユニクロのフリース出さなきゃなー どこにしまったっけなぁ? また新しいの買うかぁ。」

とぼとぼと家へと向かう帰り道、今日のバイトのことが脳裏に浮かんでは消えていった。


とにかく今日は客が多かった。その上厨房での空調が壊れていたこともあり、厨房は地獄のような蒸し暑さだった。

そういうときは終業時間まで頭の中をからっぽにして何も考えずに黙々と作業し続けるのがコツだった。

結局、何か言ったところでこの環境からは逃げられもしないのだ。時間さえ過ぎれば解放される。



「なぁ、武志、熱くないか?」

ようやく訪れた終業時間、同じバイト仲間の大輔はそう言って、服の裾で汗をぬぐった。

「ああ、熱いな。エアコンが調子悪いみたいだな。こうも熱いと、冷蔵庫にでも入りたい気分だな。」

「お、それいいな。入ってみろよ笑」

「おいおいマジかよ笑。」

「ははは。店長が空調直す金をケチってやがるんだ。冷蔵庫で涼む権利くらい俺たちにあってもいいだろ。」

大輔はそう言っていじわるそうににやりと口を曲げた。

「お。言われてみればたしかにそうだな。こんな感じか? おおっ すげぇ涼しい涼しい。」


パシャ


「ふ・・ふふっw この写真すげぇよく撮れてるぞ お前のスマートフォンで撮っといたから、後で俺にも送ってくれよ。」


ピロリン


『さっきの画像早くアップしろ笑』

大輔からメッセージが届いた。

スマフォを取り出し、写真フォルダを開く。

そこには、身体半分だけ冷蔵庫に入った自分が笑顔でピースをしている写真があった。

いつも大量の食材で埋まりウォンウォンと不気味な駆動音をあげる冷蔵庫に自分が潜り込んでいる姿は、なんだかとっても新鮮だった。

ふふ、ブラック企業のバイト君。今度は冷蔵庫で食材にされる。ってか。


武志は写真をアップロードして、テキストを入力する。

ふと、脳裏にどこか遠い世界が見えたような気がした。

ーーーーあれ、こんな世界どこかで見たような?


まぁ、いいか。


武志は迷いを振り切るように勢い良くボタンを押した。







「冷蔵庫なう。」