【映画「風立ちぬ」レビュー】 堀越二郎「お?お? これ風立っちゃってる感じ?www かぁーっこれ完全風立っちゃってるわーww 完全風立っちゃったわーwww はい俺、今完全に生きめやもしてまーすwww」

取引先様から映画の前売り券をいただきました。

なんていうか人から物をもらったりごちそうしてもらったりって、払ったコストの割にはイマイチだったみたいな相対評価から解放されて、絶対評価で100%得した気分になれるのでとっても大好きです。


もちろんこの時期に見る映画と言えば、かのスタジオジブリの「風立ちぬ」これしかありませんね。

いつもなら

「映画を見る時はね、誰にも邪魔されず 自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで・・・」とかいって1人で見に行ったりするのですが、困った事にいつものジブリ映画とは毛並みが違って、今回のジブリは大人の恋愛をテーマにした作品との前評判が。

零細起業家という、売れないお笑い芸人やら売れないバンドマンクラスタよりランクが劣るスードラの私には、これはなかなか敷居が高い。


だってですよ?あのジブリスタジオが大人の恋愛とか言ってるんですよ?

周囲も見えない漆黒の空間の最中、妖艶なシーンと甘美な音楽で盛り上げられちゃって、

席の上でポニョとか、ハウるの動く席とかで竿立ちぬとかなんとかみたいになっちゃってしまったら!!!!! 


はい・・・スタジオジブリの皆様、大変申し訳ございません。


とまぁそれはさておいて、「無料前売り券チケットを生け贄にかわいい女の子を召還して俺のターン!!」ということで女の子と映画を見に行ってきました。


ジブリで「戦争」「大人の恋愛」「飛行機」ときたら否が応でも期待が高まるわけです。

あれこれ妄想の中の風立ちぬが、生きめやもしちゃってもう俺の中の風立ちぬ感マックスなわけです。


【ぼくのかんがえたさいきょうの「風立ちぬ」】

時は軍靴の足音が迫りつつあるかの時代の日本。

貧しくも清く正しい心を持った主人公、堀越二郎。

いじめられっ子だった彼の日課は自分だけが知っている秘密の場所で空を見る事。

そんなある日、一機の飛行機が不時着をする。

運命とも言うべき、二郎とパイロットとの出会い。

「いつか自分の手で飛行機をつくり空を自由に飛びたい。」

その思いが、弱虫だった彼を変えた。

猛勉強の末、夢への切符を手に入れた二郎は一路、田舎を離れ東京に向かう。

そして、戦地の空爆で最愛の父を無くし、飛行機を憎むヒロイン、里見菜穂子。

飛行機をひたむきに愛する者と憎む者。決して交わることのなかった二人の人生。

運命か偶然か。神は二人を出会わせた。

飛行機を憎んでいた菜穂子も、その二郎のひたむきなまでの飛行機の思いに心を開き、いつしか二人は惹かれあい夫婦の契りを結ぶ。

しかし迫り来る戦争の足音は残酷なまでに二人の仲を引き裂く。

「自分は人を殺す飛行機はつくらない。」 そう誓った二郎のもとへ、1台の車が。

才能を見込まれた二郎は軍により、半ば強制的に戦闘機の開発に徴用されるのであった。

日本から遠く離れた満州で、新型戦闘機の開発を続ける二郎。

この飛行機が空を飛べば、日本に帰れる。菜穂子に会える。

数々の苦難を乗り越えついに完成した試作機。

後は、風を待つだけ。

そこに迫り来る連合軍。そして炎に染まる飛行場。

「風立チヌ イザ生キメヤモ。」

二郎から届いた最後の手紙に書かれたたった一文。

全てを悟った菜穂子の目から一筋の涙が流れる。

菜穂子はその手紙を折って紙飛行機を飛ばす。

8月の澄み切った青空に二郎の紙飛行機が飛んでいく。

どこまでも・・・どこまでも・・・ ずっとずっと・・・・


完。

ヤバい!! 泣ける!!


さあ、風立ちぬ 来てくれ!! 俺を道玄坂に行きめやもさせてくれ!!(違)




【現実の「風立ちぬ」】


堀越二郎「くぅ〜 飛行機さん 格好良すぎですww 糞ど田舎で飛行機オタだった黒歴史時代もありましたけど、今やちゃっかり俺も首席で東大卒業して天下の三菱の社員っすからwww しかも最初から留学行っちゃうエリートコースとかww お?そこのガキ。ほらシベリアでも食うか?ww ん?底辺は大変なんだろ?www どう?ん?ん?え?シベリアいらないのw? てかほんと仕事激務で忙しいわー 俺昨日2時間しか寝てねーわー ほんと2時間しか寝てねーからなー え?なに?この飛行機って戦争に使うのww?嘘w? つか死ぬじゃんそれwwマジウケるwww冷蔵庫に入って炎上ならぬ戦闘機に入って炎上とか全然シャレになってねーしww まぁいいやどうせ俺乗らないしww てかなにあの子かわいいじゃん? え? 俺が若いときに助けた子? うっそーそれどこ情報よー ほんとそれどこ情報よー これは行くしかないっしょww アツいww どう?どう?美人な奥さんゲットして 新型戦闘機開発の責任者とかやっちゃってる俺ww  お、これ風立っちゃってる感じ?www かぁーっこれ完全風立っちゃってるわーww 完全風立っちゃったわーwww はい今、俺、完全に生きめやもしてまーすwww タバコがうめー!ww あ、そういえば菜穂子って結核だったっけwwヤバいwww 「ゴホッ!ゴホッ!」菜穂子は死んだ。生きめやも(笑)」


これは風立ちぬではなくて席立ちぬ・・・/(^o^)\


なんていうか・・・ その、堀越二郎の「底辺層の貧乏人はドロップスだかおはじきだか知らねーけど口の中に入れてそこらへんに転がってろよ。」的なチート感が半端なさすぎて、全然感動できなかった・・・





ちなみに一緒にいった女の子は感動して泣いていたので、僕がおかしいのかな、と思って

ネットで感想をいろいろ調べていたら、このモヤモヤ感がこちらのブログでぐうの音もでないほど、解説されていたので紹介しときます。

『風立ちぬ』を見て驚いたこと - sombrero-records.note



このブログで書かれた「天才のために犠牲になる凡人。そしてそれにより生み出される残酷なまでの美しさ。」という解釈はとても正しいと思う。


そしてね、多分ね、ただもうひとつこの作品に込められた宮崎駿監督のメッセージがあるとしたら「全体像の呪縛からの脱却」だって俺は思った。



刹那の一瞬を生き抜く人間は、美しく、素晴らしいものを生み出せる可能性にあふれている。


堀越二郎は、ただ自分が思うかっこいい飛行機を純粋につくりたかった。そして彼はとても素晴らしい飛行機をつくった。

ただ、もし彼が自分のつくった飛行機が戦闘機となって結果としてどういう結末をもたらすのか途中で知ってしまっていたら、多くの人々の命を奪い、死んでいく乗組員のこと途中でを知ってしまっていたら、彼は素晴らしい飛行機をつくれたのかな?


人は全体像を知ってしまうとときに前へ進めなくなってしまう。

世界にはいつしかそういう呪縛で縛られてしまった人がたくさんいるよ。

スポーツだって、音楽だって、芸術だって、そして、僕がいるビジネスの領域だってそう。

世界に新しい市場を最初に切り開くのはいつだって人材や資金を潤沢に持つ大企業ではなくて、純粋にただそれだけを追いかけた1人の起業家だ。

これは失敗する? これはダメ? これはだいたいうまくいかない?

そしたら、一歩も前に進めないじゃないか。


 一介のアニメーターから稀代の名監督まで上り詰めていった監督は、そして全体の呪縛から抜け出せなくなった。

ああ、こういう書き方はだいたい成功する、逆にこれは失敗する。こういうのは儲からない。この表現はだいたいウケない。これはよくあるパターン。あれ?じゃあ今つくってるのは何だったんだっけ?


いつしかたくさんの全体像を知ってしまった監督は、純粋にただ良い作品をつくることだけにひたむきだったあの頃の自分に戻りたかったんじゃないのかな?

ただしそれがどういう結末をもたらすかはわからない。

それはときに悲惨な結末やも知れない。

でも本当の美しさはいつだってそこから生まれてくる。

そういうアンチテーゼのひとつの答えが風立ちぬ、という作品だったんじゃないかな?



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