読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日本でスタートアップに待ち受けるトラップ

f:id:tokunoriben:20140121031357j:plain

あるスタートアップが自社を清算します、という記事がフィードに流れてきたけど、大変すばらしいブログだった。


起業する前に意識すべき5つのポイント。失敗してみて気づいた、とあるスタートアップの反省 - Follow Your Heart



確か一度お会いしたことがあったかと思う。キャリアも素晴らしく大変優秀な方だった。

「ほら見た事か!」「起業は怖い。」といったコメントも散見されたが、トップの決断に僕は惜しみない賞賛の声を送りたい。

経営とは決断なので、撤退の決断も相当の能力が必要なのだ。





前のブログにも書いたけれど、成功とか失敗というのはどこかのプロセスを切り取った一部でしかすぎない。

そもそも人生は長いのだ。今のはしょせん小さな波だったと割り切って、次のビックウェーブで当てればいいだけの話だ。


そして、大事なことはキャッシュや資産はたとえなくなったとしても、実際に何かやった知見や経験というのは必ず残ると言う事だ。お金や資産は生きている限りいつかは無くなっていくものだが、知見や経験は生きている限りなくなることはない。

やった事無い人にはそれがわからんのです。

とは言え事業をたたむとなると負債とか不義理とかいうのが発生して、それらがソフトランディングを妨げるのでマイナスのイメージが払拭されないのであろう。ビジネスである以上、損する人がいれば得する人がいるのはどうしても避けては通れない壁だ。

ただ、巷で話題のスタートアップと呼ばれる事業体においては構造的に、そういうもののダメージが低いはずである。

よく日本は起業環境がよくなく、失敗した人に厳しい社会だとか、なんとかいう意見を見るが、

それは日本人が「起業」というものに対して、そもそも曖昧な認識でとらえているからいろいろなものがごっちゃになっているからだと思っている。

例えば、わたしたちが一言に「起業」と呼ばれる行為を考えてみると、
「独立する」のも、「新規事業を立ち上げる」のも、「スタートアップを立ち上げる」のと、「ベンチャー企業を立ち上げる」のと、全部「起業」で一緒くたにされる。確かに法人をつくる、という点では共通なのかもしれないが、これらは本来まったく別物である。

わかりやすく図解して見よう。

ビジネスの形態と領域について僕は、こういう風に分類できると思っている。

例として「理髪サービス」をテーマにそれぞれの事業の一例をあげてみた。

MECEじゃないとか言うな。梅木大先生に失礼だぞ。


技術という単語しか良い言葉が思いつかなかったが、ここでいう技術とはスマートフォンとか何か新しいそういう大きいトレンドだとざっくり思ってくれたら良い。

f:id:tokunoriben:20140121025249j:plain

①既存技術×既存市場・・・独立・開業
 独立して自分がオーナーの理髪店をつくる。

②新規市場×既存技術・・・新規事業
 飲食店のクーポンマガジンだけでなく新たに、理髪店のクーポンマガジンをつくる。

③既存市場×新規技術・・・ベンチャー企業
 理髪店を検索して簡単に探す事のできるウェブサイトをつくる。

④新規市場×新規技術・・・スタートアップ
 スマートフォンで髪を切りたい人と切られたい人同士をマッチングさせるアプリをつくる



実は理髪サービスを「起業」すると考えた場合だけでも、これだけビジネスの差があるのである。

そして、それぞれの領域において最も重要な要素は異なっているのだ。



①既存技術×既存市場・・・独立・開業
 独立して自分がオーナーの理髪店をつくる。

あなたは、理髪店で長年働いて経験を積んだ。お金がないがオシャレをしたい若い人向けに「工夫と効率化」をこらして、新しい理髪店を立ち上げた。


②新規市場×既存技術・・・新規事業

 飲食店のクーポンマガジンだけでなく新たに、理髪店のクーポンマガジンをつくる。

あなたは飲食店のクーポンマガジンをつくっていた。飲食店と同じように理髪店にも同じことができるのではないかと思い、クーポンマガジンのノウハウを理髪店向けに「横展開」して新規事業を立ち上げた。


③既存市場×新規技術・・・ベンチャー企業

理髪店を検索して簡単に探す事のできるウェブサイトをつくる。
あなたは理髪店向けのクーポンマガジンをつくっていた。紙の媒体より、インターネット上でもお店探しや予約ができたら便利だと思ったので、インターネットだけでお店探しも予約もできるウェブサイトを立ち上げてクーポンマガジンに「取ってかわる(リプレイスメント)」ベンチャー企業を立ち上げた。


④新規市場×新規技術・・・スタートアップ

スマートフォンで髪を切りたい人と切られたい人同士をスマートフォンでマッチングさせるアプリをつくる
あなたは理髪店で働こうと思ったが、髪を切る練習台が探せず理容師になるのを諦めた。その後スマートフォンを使って髪を切りたい人と切られる人がマッチングして「ニーズが解決できる」アプリをつくった。


と、実は起業ひとつとってもこのように事業は異なる。

そしてそれにともない逆に失敗する理由も同じように異なっていく。




例えば、
①既存技術×既存市場・・・独立・開業
 独立して自分がオーナーの理髪店をつくる。

という場合だと、大事なのは「工夫と効率化」すなわち創業者に一定の技術とか経験がないと絶対に成功しない。ここでの失敗というのは、自分に技術や経験を過大評価しすぎたということが大きな要因である。



②新規市場×既存技術・・・新規事業
 飲食店のクーポンマガジンだけでなく新たに、理髪店のクーポンマガジンをつくる。

事場合だと大事なのは「横展開」すなわち、自分たちがもっているリソースが応用できるかという勘定を誤ったらいけない。例えば実は理髪店は飲食店と違って地域の密着性が高く、飲食店のクーポン向けのリソースが「横展開」できなかった場合が失敗の理由となりうる。


③既存市場×新規技術・・・ベンチャー企業
 理髪店を検索して簡単に探す事のできるウェブサイトをつくる。

これだと、大事なのは「リプレイスメント」であり、ベンチャー企業ならではの速度を活かせずユーザーを獲得する前にもともとその領域にいる既存のプレイヤーに先をこされて「リプレイスメント」できなかったことが失敗の大きな要因である。


④新規市場×新規技術・・・スタートアップ
 髪を切りたい人と切られたい人同士をスマートフォンでマッチングさせるアプリをつくる。

この場合大事なのは「ニーズの発見と解決」である。大事なのはニーズの発見と解決である。
実は、髪を切られたい人は練習台になんてなりたくないし、切る側もすでにルートがあって特にアプリでマッチングを求めてなかった、というニーズの発見と解決の目測を誤った場合が失敗である。
 

f:id:tokunoriben:20140121030319j:plain


そうである。スタートアップにとって最も大事なのは「ニーズの発見と解決」である。

そこにニーズがない、とわかったのであればさっさと撤退するか、がらっとビジネスを変えてしまえばいいのである。ニーズがあるかを確かめるのに、理容師のプロフェッショナルになる必要はないし、クーポンマガジンをつくる必要はない。そして、店舗をつくったり営業マンを抱えたりするための多大な資本を用意する必要もない。

それをはき違えて「工夫と効率化」「横展開」「リプレイスメント」といった選択肢が必要だと思ってそれを取ろうとしたりすると、そこは小資本のスタートアップが挑むには危険すぎる。

だから、構造的にスタートアップはたくさんつくってたくさん潰すのが、事業として正しい進行方法である。

それを「理容師としての技術が足りない」とか「クーポンマガジンのように死ぬ気で営業しなきゃ」というのは、お角違いであるような気がする。


ただ残念なことに「スタートアップ」は日本では構造的に不利である。

例えば、髪を切りたい人と切られたい人同士をスマートフォンでマッチングさせるアプリ、で考えると、もしかするとそういうニーズをもった人が世界のたった1%くらいいるかもしれない。

その場合英語圏で世界対象の展開だと最初から10億人のうち1000万人がユーザーになりうる。スマフォアプリなら、何千万人だろうが相手にしたビジネスができる。

1000万人から500円取れば、売上げが50億である。そして、彼らは理髪店と違って店舗を構える必要もないし、クーポンマガジンをつくる必要も無いし、広告枠を取る営業マンを抱える必要もない。

理髪店のオーナーやベンチャー企業ではどう逆立ちしても太刀打ちできない。

まさに革命である。


ところが日本語で日本を対象につくった時点でマックスのキャパが1億人で100万人。

売上げで5億円。これでは中小企業の域を出ない。

最初からアプローチできるところが違うので、絶対的にスタートアップが不利なのだ。


逆に「ベンチャー企業」は日本では構造的に有利である。

日本の大企業が意思決定は遅いのは良く言われている事だ。ウェブで果たして、費用対効果があるのかとかそういうのを経営陣がワイガヤ行っているうちに、若い人らがさっさと事業を立ち上げてしまって、もうニッチもサッチもいかなくなってしまうパターンである。


これは、日本で幅をきかせている成功した「起業家」がだいたいタイムマシン経営だったり、ベンチャー企業というのがそもそも和製英語だったり、とかいうところからして日本向けの起業スタイルなのかもしれない。

日本においては、スタートアップも成功する為にはベンチャー企業化するのが成功の要因なのだろう。



起業の形態がそれぞれ違うように、その形態で求められる人の素質や能力も異なる。


スタートアップに求められるのは「ニーズの発見と解決」である。スタートアップが無理くりにベンチャー企業化する必要はない。そこでは求められる役割も必要なリソースも違う。

だからスタートアップで「ありゃ、こりゃだめだ。」と思ったら損きりしてさっさと撤退して次の打席で打つべきなんだ。

逆に、そういう起業の本質を見抜けず、別のベクトルで拘泥してしまっているのは社会にとっても損害が大きい。ゴーイングコンサーンの方が罪である。

その人は本来別の領域で価値を創出する人かもしれないのに。


スタートアップ・マニュアル ベンチャー創業から大企業の新事業立ち上げまで