【レビュー】秒速5センチメートル
今更ながら秒速5センチメートルを見た。存在は知っていて、あの有名な曲も知っていたけれど、なんとなく青春の色恋的なものはそれはそれで見ている方も疲れるので、今まで見ていなかったけれど、
その日は僕は疲れていたのだ。
ストーリーはともかく、とにかくあのキラキラしたBGMで癒されたかった。ピアノの音で寝落ちしたかった。
が結局ストーリーに引き込まれて最後まで見てしまって、心にぽっかり穴をあけてしまった。
秒速5センチメートルのすごいなって思うところは、恋というものについて、幼少期から青年期の10年以上の長い時間軸で追っているところだ。
転校生の幼馴染と運命的な逃避行にふけった積雪の夜の思い出
満点の星空の下で、級友と語り明かしたあの日の夜
ブラック企業のシステムエンジニアとして希望を失い磨耗している日々
どこまでも広がる白面の世界、キラキラした青碧の夜空の思い出、くすんでどよんだ東京のガード下・・・・
それらは決して別々の誰かの人生ではなくて、たった一人の人生の中で展開されている光景だったわけで。
主人公と同じようにもう30間近のこの年になると、人の人生の推測が難しくなってきているというのをしみじみ感じる。
人は生きている以上、何かを背負っているし、何かの経験をしている。
しかし、僕たちが知る事や推測することができるのは、その人の人生の今という一時のことでしかない。
だとしたら、人を好きになってしまうというのは、その人の一部の人生を好きということになるのだろうか。
例えば、その人の過去や未来の一部を見てしまって知ってしまって、その人のことを好きにも嫌いにもなってしまうのだとしたら、今まで自分が信じていたはずの感情とは一体どんな感情だということになるのだろうか。
僕たちは結局目の前のほんのわずかの今のその人しか見えないし、その人の一部の人生しか知らないわけで、そして今は確かだったはずの感情も、自分もそして相手もすすみゆく時代の中で変わっていってしまうわけで。
その中で、ただ変わらないものがあるのだとしたら、それは毎年散りゆく桜の花びらであったり、種子島の満点の星空だったり、人々が行きかう雑踏なのだろうか。
そんな思いを象徴せんとばかりに、このアニメは景色がとても綺麗だった。
いや景色はいつも綺麗なのだ。
それを見ている人間が一瞬の景色を切り出していて感情をあてはめているだけであって。
あの瞬間、その時に見たということが価値であって。
どこまでも吸い込まれていってしまいそうな茫漠とした映像に気がつけば、意識が吸い込まれていって。
素敵な映画だったのでした。
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